それは賞金を獲得したり、チョコレートケーキを食べたり、コカインを吸ったときに活発になるところと同じ報酬回路だった。
ここはドーパミンに強く反応し、快感を生みだしてくれるところである。
要するに私たちがおたがいに協力するのは、気持ちよくなれるからだ。
そうだとすれば、協力したいという欲求は、人間にもともと備わっているのではないか。
アメリカで最も注目されている神経科学者のひとり、A・Dは、A大学の同僚と共同で、人間の道徳感覚が生まれる場所を、生物学的に突きとめたと報告した。
Dが論文で紹介したのは、20歳の女性と23歳の男性の例だった。
男性は生後3ヶ月のとき脳腫傷の手術で前頭前野を切除され、女性は1歳3ヶ月のとき自動車事故にあって前頭前野を損傷した。
2人とも手術や事故直後は、順調に回復したように見えた。
知能は高く、大卒の両親が築く安定した家庭で育てられた。
兄弟姉妹にもまったく問題は見られない。
ところが成長するにつれて、問ために、協力することが必要だった。
だからチームの一員として協力できる者ほど、生きのこるうえで有利だったのかもしれない。
思春期の認知能力に関する文献をひと通り調べたD・Kは、世界や自分自身に対する視点が、思春期に根本から変わることに異論はないと述べる。
しかもその一大転換は、身体と脳が変化する時期に起こっている。
もちろん、思考の変化や成長を引きおこす直接的な原因はまだ見つかっていない。
ただ思春期のこうした転換には、「社会性、情動、認知能力の大幅な再編成」がともなっていることから、おそらく前頭葉が鍵を握っているだろうとKは言う。
なぜなら入づきあいとか、情動とか、知的判断といったもろもろの要素を統合するのは前頭葉だからだ。
「あいつは俺の悪口を言っている。
以前も同じことがあっただろうか?俺はお返ししてもいいが、それほどの相手だろうか?」といった文脈を理解するのは、前頭葉の仕事なのだ。
「いずれ、前頭葉がすべての源だとわかるときがくる」とKは予想している。
ほかの研究者も指摘しているが、Dが例に出した2人は、重度の損傷だったことを忘れてはならない。
これほど重傷でなければ、子どものときに同じ場所をやられたとしても、正常に成長することが多い。
サンプル数が少ないとはいえ、乳幼児期に重い損傷を受けたこの2人から言えるのは、「最初にルール学習があったのではない」ということだ。
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